中川米造「学問の生命」




医学とは何かを明らかにする「医学概論」を研究してきた著者の、自伝を通した学問への考え方を記した作品。もう書かれたのは10年以上前であるにも関わらず、医学の考え方は今現在に通じるものばかりである。医療の問題は、患者‐医師の関係にほとんどがあると著者は述べているが、今日ではそれがより多く取り上げられていると思う。これは著者自身が、「未来志向型のモデル」を常に意識し、考えてきたことの証ではないだろうか。


『自分のあるがままの姿を真実さらけ出して、それを患者にぶつけていくことが大事である。』
『「人間」は「人の間」と書く。人と人との間の「つながり」を重んずるのが人間らしさというものである。』


これらの言葉、さらには『同情』ではなく『共感』すること、病気であっても健康であれるという考えは強く僕の心に残った。『椅子の違い』をたとえにした患者と医師の関係を表す表現や、『科学者を一つ目のサイクロップス』にたとえる話も非常に面白い。科学性と人間性の追求という意味での医学、この考えは非常に興味深いし現代医療に必要なことであると思う。また、教育に必要だといっていたワークショップの一部を僕は授業で体験したことがあるけれども本当に面白くて新鮮だったのを覚えている。


彼の、医学概論に対する詳しい理論などを知るには物足らない。しかし、自伝を混ぜている点では非常に読みやすいものとなっている。もちろん、時代が異なるので『古い』と感じられる部分もあるかもしれないけれど著者の言うとおり、僕達若者に目を向けて欲しいのは『古いモデル、今のモデルではなく、現在起こっている諸問題の深層にある、未来志向のモデル』なのである。『そして、そのモデルを発見するには、学校で教えられる勉強をしていただけでは難しい』とも著者は述べている。本当に学校の医学だけ勉強していたら、『ああすれば、こうなる』人間になってしまう気がして、僕はそれを心から恐れている。