安部公房『他人の顔』




実験中の事故で顔がボコボコ、ケロイドだらけで醜くなった男が、妻との間に断たれてしまった`愛´を取り戻すために仮面を作り上げる。その後、仮面をつけた男は別人として、妻の誘惑を試みるが・・・・・。


仮面に対する作り方、素顔との関係への記載など、あらゆる場所に書かれた物事の論理的観察はとても精巧で面白い。つぶさな説明だけでも読んでいて全く飽きることはない。仮面を作り、そこから一体どうしようかという迷い。そこからさらに、仮面の自分‐妻‐自分という奇怪な三角関係への苦しみに至る過程は非常に興味深いものである。そして、仮面と素顔の関係性の逆転を妻に指摘された主人公が、また新たなる自分を出発させ、途中に挟まれた映画のシーンを示しながら現実への移行を感じさせるラストは、心にずしりとのしかかったものをすっと取り除いてくれたような気がした。


昨日知りあいと、自分とは何かっていう話をしたんだけれども、僕は自己って自分の人生の記録や足跡みたいなもんだって力強く言えたらいいなって思った。そういえば僕も胸にケロイド瘢痕を少し持っている。高校の時は結構嫌で気にしてたなあ。。。