トルストイ「人生論」(新潮文庫)




トルストイの死の淵において、様々なことに対する考え方が書かれた本。全三十五章+補足からなり、生命や自分達が通常捉えている死に対する概念、愛などに新しい視点を齎し、そして人間は理性を持ち他の動物とは違う特殊な存在であってその中でどう生きるべきであるか、苦しみなどへの考えを説いたもの。


僕は読んでいて彼の文章中の「欺瞞」という言葉や内容が非常に気になって仕方がなかった。僕は日常生活から、この欺瞞的出来事にあまりにも触れすぎているのだろうか。僕はこの欺瞞を取り除くのは現実的には理想論であって、それが幸福を邪魔するとトルストイは主張するのだけれども、これに対してはやはり何か、怒りを覚え続けなくてはならないのだと思った。


また、「こうして人々は、何のために生きているかをたとえ自分たちは知らなくとも、他の人たちが知っていると自分を納得させようと努めながら、よぼよぼになるまで、死ぬまで生きながらえるのだが、ほかの人たちだって、彼らを頼りにしている人たちと同じように、そんなことはほとんどわかっていないのである。」(p45)という部分に非常に共感を覚えた。僕は生まれて、育って、中高大とそれなりに教育を受けて、将来何かしら職について働く、そしていつかは世間で呼ばれる「死」というものを迎える。僕はこんなものを生命と捉えることなんてできない。これに対する解決法を残念ながらこの本によって、完全に与えられたとは全くいえない。けれども、どっかしらの穴が一部分埋まったというのは間違いないのではないだろうか。


文章中には新約聖書福音書の引用が良くされている。中でも愛について引用された部分には非常に刺激を受けた。けれども彼自身は「今の時代に、理性を素通りして、進行を通じて精神的な内容を人間にそそぎこうもうとするような試みは、口を素通りして人間にものを食べさせようとする試みに等しい」と言っているくらいだから、〜教信者的な捉え方はしてないように思われた。


それよりも、この読み終えた後の優しさに満ち溢れた気持ちというか、どこか心が優しく生まれ変わった気がしたのは僕だけだろうか?非常に難解だし、自分も全く持って理解した気になるなんてことはできないけれども心は暖まる不思議な本。またいつか読もうかな。